背伸びしてみる景色

5milli/みっしゃん/そのほか

《袋の中》

夜はそれぞれの袋のなか

しまって

口を縛って

こっそり持ち歩いている


僕のコンビニ袋から

あなたのショルダーバッグへと

とびうつる

肢がはえたばかりのカエルみたいに

不器用に


僕のコンビニ袋から

あなたのバッグパックへと

旅をする

羽根が乾いたばかりの雛みたいに

無防備に


着てきたコートが邪魔になって

きみのふところに忍び込む

あたたかい

明るい宵

川沿い

糸柳が揺れる


欄干に30度の角度をつけてうたう男

あの背中へ飛び乗ろうか

踏み台にして

飛び込もうか

水がぬるむのを待ちかねている

知らない花のかおり


喫煙所からはき出される煙

焼鳥屋の裏路地

河川敷、ポテチとコカ・コーラ

コンビニコーヒーの湯気

塾帰りの肉まん

エレベーターで感じる残り香


かさこそ

小さな音を立てて

持ち運ばれる

それぞれの夜たち

真冬の虫のように

ぬくもりをさがして

暗い夜と明るい夜を

すこしずつかじって

もぐりこんで

かさこそ


袋の底のゆるやかなカーブ

そこに溜まったぬかるみに

触れないように

だれかの夜に

閉じ込められないように


夜に浸した指先の

こっそりにおいを嗅いで

かたく

袋の口を結びなおす

「死ぬくらいで胸を張るな!私だっていつかは死ぬ」

結局ひとが作ってひとが演じるものなんですよね。
だからたとえばキャパが50人であろうと1000人であろうと、本質的には変わらないんだろうなあと思ったのです。


舞台「キレイ〜神様と待ち合わせした女〜」を観ました。


こういう作品を観るのは初めてじゃないかな。

こういう作品、というのは場所がフェスティバルホールでチケット代が京都音楽博覧会よりも高値で出演者がテレビでよく見る役者さんたちで、知り合いに話したら「見たかったんですよねー、[過去の出演者]さんがグラビアドンピシャ世代で、めっちゃ好きで」って羨まれたりする作品のことです。

どメジャーで、商業的に成功した作品。松尾スズキ作・演出。端的に言うと、すっげぇお金かかってそう。

でも、どこかの地下の小さな箱で演じられている作品と、本質的には同じなんだろうなあと思ったのです。

ファンタジーの中にリアルな重みが潜んでいて。せりふ回しとアクションが軽妙で。歌と音楽がすばらしくて。

そして、ひとの発する熱と、それがひんやり冷える瞬間と、心が捻じくれるような苦しみが伝わってくる。

オペラグラスでもないと表情が見えるか見えないかくらい遠くて、DVDとかで観たほうがいいのかもしれないけれど、やっぱりこれはライブなんだ、と感じました。そこに、ひとがいる。


あとは、

阿部サダヲさんの歌すごい
神木隆之介くんは天使
小池徹平かわいい

文句ない、なにひとつない


わたしはこの作品の音楽制作であり出演者でもある伊藤ヨタロウさんを見たくて行ったので、そこばっかり見ていたことをお伝えします。

白塗りの怪奇なヨタロウさんは、気がつくとそこにいる。知らないけどそこにいる。こっちを見て笑ったり嘲笑ったりしている。白くて、暗くて、光のようでも闇のようでもある。

「カミ」という役柄そのままでした。きっと、「ケガレ」ていて「キレイ」なもうひとつの存在。

「宇宙は見えるところまでしかない」などの名曲(だとおもう!)は、先にメトロファルスのほうを聴いていたので、あの大好きな曲をこの有名人がこんな素晴らしい音響で歌っている…!という意味で震えがとまりませんでした。

ある意味とても豪華な歌謡ショーでした。生オケだし。

19年前の初演のときはまだ未成年で、遠い世界で、まさか見られる日が来るとは思わなかった。

幸福な要素ばかりではなくむしろ不幸せな巡りあわせのほうが多かった気もしますが、その結果があの最高に愉快な4時間だったとすれば、まことに人生はシニカルな脚本家の手で書かれているものだと思います。

タイトルは、強烈に印象に残ったある登場人物のせりふです。

これを胸を張って言うんだものなあ。

威張るな。

《とべないとり》

ぼくは

とべないとり


ぶかっこうだね

二本のあしでのろまに歩いて

スベるのだけは得意なんです

今夜も吹雪に耐えるだけ


おなかに抱えたたまごには

夢とか意地とか執念とか

諦めきれないから

温め続けているんです

硬い殻で閉じ込めて


コンクリートから足を離したら

この空だって泳げると

ずっと信じていたんだけれど


やってみました


ただ墜ちただけでした


抱いてたたまごも粉々に砕けて

孵らなかった友だちが

見えない翼をはやしてる

白い世界が

見えると思っていたんですが


気がつけばみんな

無数の砕けた殻を踏みつけ

小さなたまごをふところに

抱えて行進していくのです


みんな

とべないとり


ぼくの

夕陽の当たったおなかが

いつまでもあったかくて


明日はまた

吹雪でしょうか

明日もまた

産まれるでしょうか

 

 

《カラーズ》

おんなじ色をしてる

きみとぼくは


おんなじ色の

夜に両足を浸し

おんなじ色の

朝焼けに肩を染める


おんなじことばに笑い

おんなじ味を舌に乗せ

おんなじ音楽にくすりと

こころを転がせて


おんなじ色をしてる

きみとぼくは

ちがう大きさの靴をはいて

ちがうバス停からそれぞれ

一日限りの旅に出る


ちがうことばに怒り

ちがう嘘に舌を染め

ちがうコンビニのちがう音楽で

ちがう涙をころり転がす


夕暮れが切り取られた

ちがうバスから見たちがう窓

ああ、

こんなにもあの日と

おんなじ色をしている

《パナソニック》

パナソニック


大切なものは冷蔵庫の中にしまう癖がある。

実印と預金通帳とか、パスポートとか。

夏場は、ほどよく冷えた秘密が心地いい。


ゆうべ、長い手紙を書いた。

郵便料金っていま何円だったっけ。

めんどうになって、

ぶ厚い封筒のまま冷蔵庫へぶちこんだ。


カラシとワサビの横にたてかけてある。

ちょっと刺激が強すぎるかな。


案山子のほうが人間より多いかかし祭りに

行ってきた話なんだけど。

そこまでおもしろくないから今度会ったら話すよ。

今度会ったら、離さないかもね。


肌寒い秋、

冷蔵庫の中で冷えすぎた秘密が寒々と

だれかに取り出されるのを待っている。

 

 

ボロフェスタ2019

数年ぶりにボロフェスタのお手伝いをしました。ええ、数年ぶりなんです、とあらゆるひとへお伝えしていましたが、落ち着いてGoogle検索など行ってみた結果、どうも10年ぶりぽいんですよね。だって「つじあやの」って物販ポップ作った記憶あるからさ…。10年ぶり…。まじですか。

ちなみに今年は「クリトリック・リス」ってポップを作って、人生でこのお名前を手書きする日が来るとは思わなかったなおれ…としみじみしました。ありがとうございました。

 

ご存知ない方のために、ボロフェスタとはなにかを説明します。

京都で毎年秋に行われる音楽フェスイベントですが、企画から運営、装飾に至るまですべてが手作り、ノー資本参入、おとなの学園祭。

出演者はバンドやシンガーに限らずヒップホップっぽいひとたちやアイドル、伝説の盛り上げ師などなど。ステージの合間には流しそうめんや大縄跳びもあります。

運営の大きな部分を担うボランティアスタッフは、高校生大学生専門学校生フリーターニート無職社会人バンドマンなどなどあらためてその中に入ってみるとむちゃくちゃ多彩なすごい場所です。

フェス、とかイベント、という言葉ではおさまりがつかない。すごい場所。こういう場所があって、そこへ飛び込んでいきさえすれば、日常がつまらないなんてことはないと思えるんです。

10年前とは集まる顔ぶれが大幅に変わっていましたが、おもしろいことするぞ、という現場の空気はまったく変わらないし、なんならパワーアップしていると感じました。熱意に経験と技術が追いつき、そこへ新たな熱意が追い焚きされていく。おそろしい。

 

今年のイベント自体についてはボロフェスタ公式ブログ(http://borofesta.blog.jp/)はじめいろんな人たちがレポートしてくださっているので割愛、というか体力削れすぎてよくおぼえてません、賄いのごはんがおいしかったです、いろんなお友だちに会えて嬉しかった。とにかくお疲れさまでした。

KBSホールの撤収作業が終わった夜、点灯したステンドグラスを真下から仰ぎ見ることができたのは感無量で、目の裏で涙が出ました。
同時におおいに僭越だなあと胸が痛くなったのは、あれはステージに立つ人の特権だと思っているから。でも、ありがたいことだしきっと一生忘れません。
人生何が起こるか想像もつきませんが、たくさんの人たちとのまた来年、が実現しますように。と思っています。生きることをがんばろう。

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《白線》

ちいさな警報と

オレンジ色の残量18%

寝ぼけまなこで

コードを探す


いつのまにか

夜は更けて

知らない間に

眠りこんでいたのだ


毛布の端に引っかかった

白いラインを手繰って

引き寄せた

この先に朝はある

のかな


もう片方の手は

ずっと繋いでいるから

あたたかく

汗ばんで


いる


ほのかに点灯した

みどり色は

安心のサイン


ここにはどこにも

境界はなくて

薄らかな距離を

手のひらがあたためる


繋ぎっぱなしの

線がひとつ

あるだけだ