「いまが分かれ目ですね」
前髪を切ることは選択肢になることすらなく、それは必然だったらしい。
「切りますね」と言われ、わたしは「はい」と承諾する。横分けにして耳にかかるくらい伸びた前髪は、いちはやく簡単に切り落とされて終わった。
「いまが分かれ目ですね」とは、わたしの近況に対する彼(美容師)の感想である。
「どちらの道も魅力的だし楽しいけれど、どちらに行っても後戻りはできないですよ」
おい、サイドの毛を梳いたり髪色を決めたりする作業の合間に話すには少々シビアだな。
選ぶなら結末も含めてすべて愛せるのか?
その問いは道を選ぶときのひとつの指標になるだろうか。
ところがわたしときたら、選べず選ばれもしない、はじまることもない物語を、そのすべての登場人物を、すっかり愛してしまうタチなのだ。
そすうるともう、もしかすると舵は切っているのかもしれないな、と、彼に話していないふたつみっつの事項を思い浮かべる。
前髪が短くなりました。
切ってしまえば、他に選択肢はなかったのだと思い知らされる。しっくり馴染んだ風貌が鏡に映る。